2014年12月23日火曜日

上野星矢 FL コンサート @ サラマンカホール

今日は、岐阜県が誇るサラマンカホールで行われた、上野星矢 フルートコンサートへ。
ワンコインの枠で企画された、画期的なコンサートでした。

生徒さんにも大勢お会いすることができました。

会場はかなりいっぱいで、お子さん連れも多かったです。

Twitter より拝借

上野 聖矢 - フルート
内門 卓也 - ピアノ

【プログラム】

♪ シリンクス / ドビュッシー
♪ ≪デジタルバード組曲≫より  ”鳥恐怖症” ”夕暮れの鳥” ”鳥回路” / 吉松隆
♪ ヴォカリーズ (e-moll) / ラフマニノフ
♪ リノスの歌 / ジョリヴェ
♪ サイレント・イブ / 辛島美登里
♪ 海を見ていた午後 / 松任谷由実
♪ 後悔と決断 / G.ショッカー
~アンコール~
♪ I love You / 尾崎豊
♪ 春よ、来い / 松任谷由実 ~岐阜御嶽山噴火の被害に寄せて



第1曲目のシリンクスでは、後ろの方で子供が泣いたりしていて少し気になりましたが、上野さんの力でしょうか、音楽の力でしょうか、すぐに「泣く子も黙る」、(…でも心地よい)空気に包まれていきました。

上野さんの音色(の密度)は色彩的で、特に濃淡を使い分けていると感じます。響きのど真ん中を逸らしてでも、音色に変化を与えていると感じること、しばしば。

その点を、通奏低音を基軸とするドイツ的な音色というより、フランス的だな…と感じたのですが、皆さんはどうだったでしょうか?

何より上野さんは、呼吸(の吐き方)そのものが音楽的であり、いわゆる歌もの(ヴォカリーズやリノスの一部分、ポップス)はハートと直結した説得力があります。彼の素晴らしい持ち味だと思います。

今日は、曲の合間にトークがありました。

上野さんの声ー低音の柔らかい話し声は、「すでに」身体に響いていましたね。



一方で、リノスやショッカーにあった技巧的な速いパッセージは、(例によって)速すぎて、本来の音型を見失ってしまうことがあります。

以前、ダヴィデ・フォルミザーノというフルーティストの演奏を何度も間近で聴きましたが、彼の場合はどんなに技巧的で素早いパッセージも、一音一音が艶やかで、常に「歌」を含んでいるのです。

フォルミザーノ氏は、元ミラノ・スカラ座の首席奏者だったので、いつも極上の歌手を聴いていたのでしょう。フルーティストでありながら、彼も濃密な「ベル・カント(=よく歌う)」奏者だと思います。

コソ撮り


話は飛びましたが、上野さんがワンステージに込める思いの強さや、誠実な態度というものを、いつも好ましく思っています。

この地域に影響はありませんでしたが、岐阜の御嶽山の噴火に思いを寄せ、音楽を通じ「祈って」下さいました。

リノスやショッカーは、Liveで聴くとやはりドキドキします。内門さんとのアンサンブルも、以前より進化しているように感じています。

アンコール相談中


音楽の感じ方は、皆各々自由。皆さんにはどのように響いたか、ぜひお聞かせください!特に『リノスの歌』など、皆さんにはどんな風に聴こえているのか、お子さんは何を感じたのか等、とても興味深いです。


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2014年12月22日月曜日

終わりなき憧れ

岐阜シティタワー43での冬のミニライブ。
前日までの凍てつく寒さとはうって変わり、太陽のぬくもりに恵まれた日曜日でした。

告知が十分に行き届かなかったにも関わらず、1stステージ・2ndステージ共に、数十名のお客様にご来場、お立ち寄り頂きました。





本番を終え、生徒さん達にかけた第一声は、「(良くも悪くも)練習通りでしたね」でした。

我ながら、「あーなんて夢のない言葉をかけてしまったのだ…」と、反省しています。



でもね…

一般的にアマチュアの方々は、得てして本番が一番良い感じで終わることが多いのです。

本番の緊張感が、普段以上の集中力を生むからです。逆を言えば、その集中力を練習では出し切っていない、ということですよね。


なので、今回「練習通りの演奏だった」ということは、普段の練習(=レッスン)から、各人がかなり高い意識と集中力を持って参加しておられるのだ、ということを感じたわけです。

「もっとこうしたい!」「もっとああだったら素敵なのに…」という、願いの止まないレッスンは、生徒さんも時に大変かもしれません。

でも終わりなき憧れを探求するのが、音楽の素晴らしさの一つであると、私は思うのです。

Easy で Instant で Comfortable なものが、今の世の中においてあまねく享受されていることは、私も肌で感じています。

だから、音楽に対するこの終わりなき憧れや希求というものが、このような時流に対する、私のささやかな抵抗なのかもしれません。

もちろん、普段は無意識でしていることなのですが…。



本番が終わった直後は、テクニカルな事ばかりが頭によぎります。(なので冒頭のドライなコメントになってしまいますた…笑)

でもね…

次第に、生徒さん達と共に真摯に音楽に向き合い、作り上げていくことの喜びがふつふつと湧き上がって来ています。

ましてや、私たちの音楽の輪が多くのお客さんにも伝搬したのではないか、という実感は、指導者にとって最高の贈り物ではないか、と感じています。



また、今回参加されなかった他の生徒さん方にも、心を合わせることの愉しさを是非知って頂きたいと願っています。

機が熟したら、「ゆったりアンサンブルコース」なるものを立ち上げたいなと考えています。早く実現できると良いな (^-^)☆


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2014年12月19日金曜日

アンサンブル クラング 冬のミニLive チラシ

こんにちは。
今年もあと2週間を切り、迫るホリデーシーズンにワクワク…というよりは、せかせかした毎日。

間際になってしまいましたが、岐阜シティタワー43 のホームページに、アンサンブルクラングのミニライブのことが、告知されました。

(このチラシは下記のHPより、ダウンロードできます)

http://www.gifucity-tower43.jp
http://news.gifucity-tower43.jp/2014/12/klang-christmas.html

フルートの響きに合う素敵なホワイエですが、人通りが少ない場所なので、皆さんの目に留まるかちょっと心配しております。

耳なじみのある、温かいプログラムです。より多くの方々と分かち合えたら、嬉しく思います。



2014年12月5日金曜日

アンサンブル クラング 冬のミニライブ

フルートアンサンブル Klang 冬のミニライブ♬

~ひと時の、冬の癒しLive。ほっこりと、ゆったりと~


2014年12月21日(日)
13:30~ / 15:30~ 
※各ステージ、同じプログラムです。
 
岐阜シティタワー43 
1階 アトリウム

※JR岐阜駅 徒歩1分
※入場無料


≪Program≫
◆ エクローグ
◆ ヴィヴァルディ / 『冬』 より
◆ My favorite things
◆ Moon River
◆ Eternally / 『ライムライト』より
◆ チャイコフスキー / 花のワルツ
                ~『くるみ割り人形』より



フルートの音色がぴったりの、素敵なホワイエ。
気軽にお立ち寄り下さい。

2014年12月2日火曜日

高木綾子さん 公開レッスン & ミニコンサート

12月に入りました。

一昨日11月30日に、大垣市のスイトピアセンターにおいて、高木綾子さんの公開講座とミニコンサートが行われました。

大垣東中学校2年生の生徒さんと、加納高校2年生の生徒さん、30分ずつのレッスン。
(曲目は『歌の翼による幻想曲』と、テレマンの『12のファンタジーより12番ト短調』)

一線のプレイヤーならではのお話が興味深かったので、メモがてら記しておきます。

【公開レッスン】



○写真⇒何を言われているか、分かりますよね?

○自分の音を聴くとき「右耳」で聴いてみる。左耳は歌口との距離が近く、音色がタイト(又はクローズ)になりやすい。響きが「個人的な」ものになってしまいがちで、自分にはよく聴こえるが、飛んでいかない。歌口でなく、管で鳴っている方の音、つまり右耳で聴くとバランスが取れる場合が多い。(録音マイクも、歌口でなく管の方で拾うようです。)

○構えた時「ふところ」にスピーカーを抱えているようなイメージで。

○バロック音楽では「早い・明るい・軽い」「遅い・暗い・重い」がセットで対比されている。

などなど。。。


指導する者の立場としては、自分とは違った言葉の表現方法やインスピレーションが、非常に新鮮でした。自分の言葉は、ある程度パターン化されていくものなので、私にとっても良い刺激になりました。


【ミニコンサート】

高木綾子 Flute
荘村清志 Guitar

1. ハバネラ形式の小品 / ラヴェル
2. イマージュ / ボザ
3. アルハンブラの思い出 / タレガ
4. 海へ より 「白鯨」 / 武満徹
5. タンゴの歴史 より 「ボルデル」 / ピアソラ

アンコール: 間奏曲 / イベール

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チケットが早々に完売したため、私は行けなかったのですが…
11月29日に行われた、サラマンカのガラコンの模様、高木さんご本人やホールがアップしていらっしゃいました。

ガラコンの様子↓
http://ameblo.jp/takagi-ayako/entry-11958498959.html

サラマンカホールのFacebook↓
https://www.facebook.com/salamancahall


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ロングトーンのススメ ①
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2014年11月24日月曜日

Lauterbrunnen

スイスのラウターブルンネン

氷河に削られてできた、U字の谷に位置する村。
ドイツの文豪ゲーテが、作品を執筆していた場所。

地名の意味は、「音の鳴り響く泉」。
twitter より

ラウターブルンネン

こんなところで、笛、吹いてみたいな。

2014年11月15日土曜日

フルートの可能性

ある日、生徒のAちゃんが「先生~、私尺八習おうと思うんですけど!」と言いました。

西洋のフルート奏者の中には、尺八そのものを習ったり、フルートの拡張奏法の一つとして尺八を真似たりする人も少なくありません。

中でも、この分野において圧倒的なパフォーマンス力を持つ、この方を思い出しました。

Wil Offermans - ウィル オッフェルマンズ さん。

フルートのいわゆる『現代奏法(拡張奏法)』を駆使し、オリジナルのフルート曲を創作されています。奥様は、薩摩琵琶奏者の上田純子さん。

先ずは、元々尺八の曲である「鶴の巣籠り」を紹介します。
オッフェルマンズさん自身がフルート用に書き下ろした作品です。




怪演」…(笑)ー東フィル・斎藤和志さんのお言葉です。

だってそうでしょう?
ここでは私たちが普段吹いている、一般的なフルートの音色はほとんど使われていません。

西洋的な美しさとはむしろ対極にある、押し殺したような音色(=バンブートーン)やはみ出したような音色(=ウィンドトーン)。西洋音楽には無い音程感覚や、ヴィヴラート幅の多様さ。日本音楽独特の「間」という、緊張感をはらんだ時空。

…このような拡張奏法を用いることによって、西洋→東洋という文化の枠を易々と飛び越えてしまいました。

単に「尺八を真似ている」と、私は思いません。

なぜなら、このような特殊な奏法を「音響の素材」として切り貼り(=コピペ)したのではなく、日本音楽における哲学や美学への深い理解と鋭い感受をもって、このような演奏を可能にしているからです。


もう1曲は『Ilios(=イリオス)』
ギリシア神話に出てくる架空の都市だそうです。



「怪演」

この演奏には以下のような、「拡張奏法」が用いられています。


○ウインドトーン (呼吸をエッジの外側に散らした、尺八のような音)

○ハーモニクス (倍音奏法)
○差音 (本来の音階には無い微分音程。西洋音楽ではしばしばノイズとされる音程)
○バンブートーン (特殊な運指によって、音色の輝きを消す)
○マルチフォニックス (重音奏法。倍音を利用して、同時に2つの音を吹く奏法)
○ウィスパートーン (ささやくようにかすかな、口笛のような音)
○声とフルート
○循環呼吸


これらは音響的な「効果」として面白いばかりでなく、音楽そのものの在り方として多彩であり、豊かです。

この曲は、20年ほど前には録音済だったと記憶しています。



…いかがでしたか?(^o^)/

普段私たちが目指しているフルートの音色は、余計なものをそぎ落とし、音響の核に迫っていくイメージがあります。一方、上記のような「拡張奏法」は、先ほど述べた「音響の核」からまさに「拡張」された音の世界だと言えましょう。

オッフェルマンズさんは、創作の着想を、世界各地に有す「民族音楽」から得ることも多いようです。

ある意味「型」の中に収めていく西洋音楽の美学とは別に、「そうじゃなくても良いんじゃない?」「そうじゃなくても面白いんじゃない?」という、視点があると思います。

このようにさまざまな意味で異なった音響文化を、フルート1本で飛び越えてしまう、オッフェルマンズさん。

そして私たちが日々手にしているフルートの可能性について、改めて思い起こしたのです。


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2014年11月9日日曜日

聖夜の星矢

乾いた空気に、雨の雫が心地良いです。

7月の工藤重典さん、11月の工藤さん+高木綾子さんに続いて、12月にもステキなフルーティストが岐阜市のサラマンカホールへいらっしゃいます。ええがね、サラマンカ♪
上野 星矢 さん
ヨーロッパでも大活躍中の上野星矢さん。折しも今日、 『2014 Young Concert Artists International Auditions』という若い奏者を発掘するオーディションで、6人の勝者のうちの1人になった、というニュースが飛び込んできました。

木・金管ではただ1人の受賞。アメリカで少なくとも3年間、コンサートをマネージされるという副賞がついているようなので、これからは日本とヨーロッパのみならず、アメリカも彼の活動の範囲になる、ということですね。

そんな未来ある上野さんが、サラマンカのワンコイン、500円シリーズに登場です。 (ホールの企画に感謝♪)

上野さんの演奏は、名フィルとコリリアーノの「ハーメルンの笛吹き」を聴いた印象が鮮烈に残っています。この曲は、一般的なコンチェルトのスタイルではなく、題材を反映したストーリーや演技が一体になっています。(共演した子ネズミちゃん達のフルートもかわゆかったなぁ。)

とにかく、現代曲としての技術も難解でしたが、一音一音明確で、非常に魅了されました。

以来、名古屋でのリサイタルを、数回聴かせて頂いています。若者らしくスピード感があり、色々な意味で年齢相応の刹那的な演奏であるとも思いました。

チラシよりも実物の方が、ずーーっとシャルマ~ン(=チャーミング)な方です。

3歳から入場できる貴重なコンサートですが、いつものワンコインのシリーズより、しっかりとしたレパートリーが入っている気がします。

ドビュッシーを皮切りに、1900年代の作品が並んでいます。ドビュッシーの「シリンクス」は「魔法の笛」という意味ですが、ピアノ伴奏のないソロ曲ですから、サラマンカホールの素晴らしい響きや空間を、どのように使ってマジックをかけるのか、楽しみです。

Youtubeには「デジタルバード組曲」の抜粋がありましたので、参考にどうぞ。「現代曲~」と恐れるほど、聴く分には難解ではありません。むしろ、デジタルにバチーっと合っていて、カッコイイですね。


上野さんは、吹奏学部に入部しておられたとかで、このことをフルート体験の原点としていらっしゃるようです。毎日ルーティンのようにして部活動を行うよりも、たった1日部活をお休みしても、このような演奏を聴く事は、後々豊かな指針となるはず。

部活動でフルートを吹いている子は多いはずなのに、岐阜での演奏会で、制服組はほとんど会場に見られません。(浜松辺りだと、制服組をよく見かけます。さすが楽器製造のおひざ元だなと思います。)

その上野さん、3rdアルバムを出されるのだとか。J-Popのカヴァーだそうです。

「言葉をフルートで表現するためのアーティキュレーションにかけた時間、はっきり言ってバロックのフルートソナタと同じくらい研究しました。生半可な気持ちでカヴァーはしません。」

音楽の素晴らしさを伝えるのにジャンルを飛び越え、しかもポップスを吹くにも真摯な熟考があり、素晴らしい心意気だと思います。何より、彼の歌心は音楽への真心と通じていて、説得力があります。

前売りがすでに始まっていますので、どうぞお出かけ下さい♪ 

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サラマンカ500シリーズ~上質な音楽を気軽に~
聖夜は、セイヤで。家族で楽しめるクリスマスコンサート



フルート/上野 星矢  ピアノ/内門 卓也
まるで、べつの星からやってきたようなフルーティスト。
その音は、きくものの心を射る矢のようです。

ランパル国際フルートコンクール優勝。
アルバム『万華響』、『DIGITAL BIRD SUITE』が『レコードアカデミー』連続受賞。
クラシック、現代音楽、ポップスというジャンルにこだわらない「わかりやすさ」と「通好みの音楽性」、
まさに新時代の音楽家の登場です。
【同日開催】 無料・チケットレス 0歳からOK!
2014年12月23日(火・祝)14:00開演(13:30開場)
※3歳からお楽しみいただけます。

【プログラム】

ドビュッシー:シリンクス
吉松隆:《デジタルバード組曲》より 鳥恐怖症、夕暮れの鳥、鳥回路
ゲイリー・ショッカー:後悔と決断
ジョリヴェ:リノスの歌
松任谷由美:海を見ていた午後
辛島美登里:サイレント・イブ  ほか
※プログラムは変更される場合がございます。

【関連記事】上野聖矢 FLコンサート @サラマンカホールhttp://klangjapan467.blogspot.jp/2014/12/fl.html


2014年11月6日木曜日

ロングトーンのススメ ①

言うまでもなく、フルートは自分で音を作る楽器なので、曲やエチュード、音階や分散和音と言った技術練習とは別に、音作りの練習が欠かせない楽器です。

それが「ロングトーン」の練習です。
文字通り長い音を保持する練習であり、音程・強弱・明度・ヴィブラートなど、音に関する様々なニュアンスを作っていく、練習方法の一つです。



白状すると、私はこのロングトーンの練習を、ある時期全く不毛に感じていたことがありました。
フルートを初めて、ン十年も経つというのに、「またこの練習か!」とウンザリし、多大な忍耐を要した時期があったからです。

加えて、例えばエレクトーンのように、作音自体が電気信号であり、吹き手の調子によって出来不出来のない楽器が、心底うらやましく感じたこともありました。

ただ、折に触れていつも思うのです。
「ロングトーンの練習は裏ぎらないなぁ」、と。
音楽をする上で、最も大切な土台になってくれているなぁ、と。



ただ必要性は分かっていても、モチベーションが湧かない…。



そんな時期に出会ったのが、先のブログに述べたクリス・ボッティというジャズ・トランペット奏者の一言。

「朝起きてヨガをするように、(ロングトーンを通して)自分の身体の声を聴く」

Chris Botti
なるほど、私たちの心身は、毎日状態が違います。
そのことは、呼吸にも表れてきます。
「違って良いのだ」→「違っているなら整えよう」
そんな意識が芽生えたのです。

ましてや、クリス・ボッティのあれほどまでに良くコントロールされた、美しい音色を持つ人の習慣ならば、傾聴に値すると思いました。



そして更なるモチベーションのきっかけは、夕方のニュースで見た、新潟で最高級の爪ヤスリを製造する、90歳の女性職人のレポートでした。爪ヤスリの目を立てるという作業を、来る日も来る日も続けていて、その品質は若い職人には真似ができないというのです。

同じ作業を毎日繰り返す中で、研ぎ澄まされた感覚を刻み、その感覚を蓄積させていったのでしょう。この方の在りようも、私たちと同じではないか、と。

90歳の爪ヤスリ職人さん

音作りの代表的な教材にマルセル・モイーズの『ソノリテ』がありますが、大事なのは「何を」練習するかというより、「どのように」練習するか、です。



ロングトーンを何の理想もなく、何の考えもなく、何の観察もなく行うことほど無駄なことはありません。長く保つ1音の中にも、様々な観点でその音を、・・・ひいては演奏を実現する自身の身体を見つめる事は、とても面白いものだ、とこの頃は思えるようになりました。

この練習をした後は、神経伝達がスムーズになり、脳と呼吸・唇・指などの回路がより良く繋がったと感じることができます。もちろん、その後に行う技術練習を持って、それらが統合された感覚はより確固なものとなります。



折しも、先日NHKの『プロフェッショナル』という番組で、ヴァイオリニストの五嶋みどりさんがフォーカスされていました。
世界的ヴァイオリニストである五嶋さんが、毎朝1時間のロングトーンを欠かさない、というのです。一音一音、響き、弓の運び、音程感、ヴィヴラートをチェックしている様子が映し出されました。またこの練習によって、微妙な音色を聴き出す「耳」の可能性を探っているようでもありました。

Midori

五嶋さんの音楽家としての姿は、さながら求道者、或いは修道女のようにも見えて、正直息が詰まるほどでした。

ただ、彼女の求める音楽性と、それを実現する高い技術の統合は、このようなベーシックな事から繋がっているのですね。そして、ある年齢から生じ始める神経伝達の齟齬をつなぎ止めようと、このような練習を欠かさない訳が、私にもよく分かる気がしました。

ロングトーンについては、またお話しする時があるだろうと思います。
今日は、そこに向かうまでの、気持ちの持ちようについてのお話しでした。


【関連ブログ】
アンビヴァレント
自然体の作り方
ジャン・フェランディス公開レッスン


2014年11月1日土曜日

朗読会へ

今日は朗読会に足を運んでみました。
生徒のSさんが参加しておられるのです。


初めて「朗読会」なるものの存在を知ったのは、ドイツにおいてでした。詩や文学作品などを、朗読を通して味わう、というものです。ただ在独当時、ドイツ語でのそれは少しハードルが高いように思われて、体験する機会を逃してしまっていたのです。

今日は「華岡青洲の妻(有吉佐和子)」といった硬派な文芸作品から、庶民の生活の中に人間の心の襞を写し取った「かわうそ(向田邦子)」、方言で味わう「かっぱのよめっこ」や古典落語の「七度狐」という、大変バラエティに富む内容で、とても愉しめました。

朗読会 演目


「華岡青洲の妻」が始まった時、お客さんの気が静まって、一言一句、高度に集中している様子が伝わってきました。並みの音楽会より、密度の高い集中力です。音楽におけるある種の抽象性と、言葉の具体性。聴き手のキャッチの仕方が異なるようです。

聞くところによると、朗読をする人はお客さんの方を見てはいけない、とか。これは朗読者本人の「個」を滅して、作品そのものを際立たせようということだと理解しています。

音楽をする者も、本来は同じ境地だと思います。(目線に関しては、また別の考え方ですが)「オレ、オレ」と主張する個性よりも、引き算してなお滲み出る個性のあり方を、私はより尊いと感じます。何より、作品が主役なのです。



Sさんは、朗読とフルートを吹く事は似ている、と仰います。

呼吸だとか、支えだとか、音響に直接的に関わってくることもそうですし、文章を「単語からフレーズに」流れをまとめていく、ということにも、類似性を感じるそうです。

分野が違っても、共通する真理を見出すこと。これって人生の喜びの一つだな、と思うのです。

Sさんの他にも何人か、お話が「見えて」くる読み手がいらっしゃいました。登場人物のキャラクターだったり、情景描写だったり、季節だったり、温度だったり、そのお話しが立体的に想像されるのです。素晴らしい体験でした。

「美幸会」という朗読会の皆さんの真摯な取り組みは、人間の良心そのものだという気がします。良い勉強をさせて頂きました。そして何より、一人の聴衆として愉しませて頂きました。
 
 
【関連記事】
 
「葉っぱのフレディ」プロジェクト http://klangjapan467.blogspot.jp/2015/06/blog-post_12.html