2015年11月22日日曜日

パユ氏から神戸市長への手紙

存続の危ぶまれた、神戸国際フルートコンクール。
これまで神戸市が負担してきた実施に必要な5000万円のうち、4200万円が寄付で賄われ、その他企業協賛や入場料等の収入により、さしあたって2017年のコンクール実施の見通しがついたというニュースがありました。

コンクール存続に当たり、このコンクールにおける優勝者の1人、エマニュエル・パユ氏が、神戸市長に宛てて手紙をしたためました。

パユ氏の提言のみによって事が動いたとは思いませんが、パユ氏が「人間」にとっての、或いは「一般社会」にとっての、フルートの存在意義を語っておられ、心惹かれました。

同時にこのコンクールに挑戦する奏者にとっても、主催する神戸市にとっても、win×win、つまり双方に利益があるやり方を提案していることも、実践的かつ建設的だと感じます。

このように、音楽だけでなく、その音楽活動を通じて得た、社会に発信すべき「言葉」を備えた音楽家の存在は、ましてや力強く感じられますね。

以下はパユ氏が神戸市長に宛てた手紙。
恐縮ですが「神戸国際フルートコンクール応援団」のサイトより、コピペさせて頂きました。


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≪神戸国際フルートコンクール応援団 サイトより≫

エマニュエル・パユから神戸市長への手紙

http://ameblo.jp/kifc-supporters/entry-12016310364.html  (日本語訳)
http://ameblo.jp/kifc-supporters/entry-12016310364.html (英語原文、original text in English)

親愛なる神戸市長

私はフルート奏者のエマニュエル・パユと申します。1989年の第2回神戸国際フルートコンクールにて一位入賞、1992年の第53回ジュネーヴ国際コンクールにて一位入賞、1992年からベルリン・フィルハーモニック・オーケストラで首席奏者を務める傍ら、2007年から2010年まではベルリン・フィルハーモニックの委員を務め、また1995年からワーナークラシックの専属ソロアーティストをしております。

このたび、神戸市が神戸国際フルートコンクールの支援中止を検討しているというニュースを知りました。記事によると、コンクールの意義や権威、歴史については認めつつも、市民からの認知度が低く、還元率が低いとの理由によるとのことです。

このご判断に対し、まったく異なる考えをいくつかお伝えしたいと存じます。

ベルリン・フィルの委員を務めたことで、私はいろいろな会議に出席し、偉大な音楽家や、ベルリン市長、ドイツ大統領といったすばらしい政治家の方々と同席する機会を得ました。それは、各市町村には予算の均衡をはかるために努力しなければいけないという厳しい現実があるということ以上に、すでに有効であるものを「削減」してしまうと、結果は建設的でも合理的もなく、悲惨なものになってしまうということを知る機会でもありました。また私は、1993年からフランス南部のサロン-ド-プロヴァンスで夏の音楽祭を開催しています。何度も選挙が行われ、そのたびに新しい政治家が選ばれるのも見てきました。しかし彼らは全員、サロン-ド-プロヴァンス市が市場や広告に費用を投じても、この音楽祭ほど好感度が高いイメージは作れない、あるいは他の既存組織に投資をしても、これほど芸術性、注目度ともに高いものは得られないということを、非常に短時間で認識し、理解してくれました。神戸国際フルートコンクールが神戸にもたらすものも、こうした例と同じではないでしょうか。

神戸国際フルートコンクールは、いわばフルート界のワールドカップのようなものです。世界中から最高レベルの若い奏者たちが4年ごとに集まって、この誉れ高きコンクールで競い合うのです。4年ごとというのはオリンピックやサッカー・ワールドカップと同じで、優秀な人々が新しく育つに足る、かつ入賞者が市場にあふれてしまうことがない、ちょうどよい周期です。

笛を吹くという行為は、世界のどの文化にも、そして特に日本の文化に、深くしっかりと根を下ろしています。実際に、私たちが現在使っているフルートは、単なる輸入品や欧米の楽器ではありません。ムラマツフルートが最初に作られたのは、今から90年以上も前の1923年、故村松孝一氏の手によるものでした。今日、世界で生産されるフルートの50%以上が「メイド・イン・ジャパン」です。現代のフルートは「笛」族のもっとも進化した形態であり、尺八や法竹、篳篥、楽笛、高麗笛、龍笛、能管、篠笛、神楽笛、明笛、清笛など、まさに日本の伝統に不可欠な笛族と同属なのです。

世界中のありとあらゆる文化において、最古(約4万年前)の楽器はハープ族、そして笛族です。文化や音楽を意識した場面であってもなくても、笛は力強く、心霊的で、踊りへと誘う魅力で、人々に影響を与えてきました。インドのクリシュナ神、南アメリカのインカ族、トルコやエジプトのネイ笛、中国の宋朝……、人類がはじまって以来、笛の力が影響を与えた事例を少し挙げてみるだけでも、これだけになります。

神戸国際フルートコンクールは国際コンクールの中でも上位に位置づけられ、ジュネーヴ・コンクール(75年前に設立)、ミュンヘン・コンクール(65年前)、モスクワのチャイコフスキー・コンクール(57年前)、ブリュッセルのエリザベート王妃国際コンクール(75年前)とともに、そのときどきの最優秀演奏者たちを選出してきました。今年、神戸国際フルートコンクールは30周年を祝し、消え行くのではなく、円熟期に向けた発展をめざすべきです。4年ごとに新たに才能の持ち主たちを見いだすということは、いわば新たな風を、国際社会の新たな親善大使たちを得るに等しいことです。

ぜひともこれを機に、さらに大きな「神戸からのメッセージ」をご検討いただけませんでしょうか。神戸国際フルートコンクールが過去30年間に築き上げた意義や権威や歴史を、さらに他の領域で利用し、神戸のすばらしさを日本国内外に知らしめるのです。すなわち、フルートコンクールの合間となる年に、他のコンクールを行うのです。フルートや音楽に関係したものである必要はなく、「トップ中のトップ」に栄冠を与え、彼らがプロフィールに神戸市の名前を刻むことを誇りとし、そして神戸の市民が誇りとする、そういう企画をご想像ください。関係スタッフの作業は毎年同じようなものになるでしょうから、最適化されて合理的ですが、一方で、毎年まったく異なるプロジェクトですから、神戸の名前がいろいろな形で前面に打ち出されることになります。

私がはじめて日本を訪れたのは1989年、このコンクールを受けるためでした。私の将来性と神戸国際フルートコンクールのレベルとを認めたフランス政府が、旅費を援助してくれました。これが私にとって最初の、そして最良の、日本の人々との接点です。日本の人々と文化を知ることとなった関西地方、特に神戸に対する特別な想いを、私はこれからもずっと心の中に抱き続けるでしょう。その後も何度も神戸を訪れ、懐かしい文化ホールや、新しくてきれいなハーバーランドのホールで演奏会をしています。

第2回神戸国際フルートコンクールで一位となったことで、私は国際的に認められてキャリアをスタートさせました。コンクールの各回で選ばれた人々が、それぞれの世代のトップ奏者として確立しています。神戸コンクールで優勝したからこそ、私は有望な新星フルーティストとして日本で認められ、ジャン-ピエール・ランパルと同じマネージメントでリサイタルツアーを行うことになりました。それからと言うもの、少なくとも年に一度はソロやリサイタル、音楽祭で、また協奏曲や室内楽、あるいはオーケストラの演奏旅行で訪日しています。満員のお客様をお迎えする演奏会では毎回、神戸にご縁があることを誇りとして、プロフィールに神戸国際フルートコンクールの名を刻んでいます。

市長閣下、そしてすべての音楽を愛する皆さま、誇り高い神戸市民一人一人の皆さま、日本、そして世界のフルーティストの皆さま、フルートを教え、あるいはフルートを学ぶすべての皆さまに、神戸と神戸市民が大切にしている最高品質を世界に強いメッセージで発信する一つとして、私は神戸国際フルートコンクールの支持を呼びかけます。この類稀なるすばらしい都市、神戸の未来のために、その方法を示すことが貴殿の使命だと考えます。

貴重なお時間をいただき、申し訳ありません。しかし、もしこの手紙を最後までお読みいただけましたなら、これが私にとって、そして私が属している世界にとって、とても重要な問題だからこそ時間をかけてこの手紙をしたためたのだということを、信じていただきたいと存じます。

心からの敬意を持って
エマニュエル・パユ

バーデン-バーデンにて
2015年4月6日

≪関連リンク≫
神戸国際フルートコンクールに関する、今後の方針
http://www.city.kobe.lg.jp/information/press/2015/11/20151120073001.html

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