ある日、生徒のAちゃんが「先生~、私尺八習おうと思うんですけど!」と言いました。
西洋のフルート奏者の中には、尺八そのものを習ったり、フルートの拡張奏法の一つとして尺八を真似たりする人も少なくありません。
中でも、この分野において圧倒的なパフォーマンス力を持つ、この方を思い出しました。
Wil Offermans - ウィル オッフェルマンズ さん。
フルートのいわゆる『現代奏法(拡張奏法)』を駆使し、オリジナルのフルート曲を創作されています。奥様は、薩摩琵琶奏者の上田純子さん。
先ずは、元々尺八の曲である「鶴の巣籠り 」を紹介します。
オッフェルマンズさん自身がフルート用に書き下ろした作品です。
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「
怪演 」…(笑)ー東フィル・斎藤和志さんのお言葉です。
だってそうでしょう?
ここでは私たちが普段吹いている、一般的なフルートの音色はほとんど使われていません。
西洋的な美しさとはむしろ対極にある、押し殺したような音色(=バンブートーン)やはみ出したような音色(=ウィンドトーン)。西洋音楽には無い音程感覚や、ヴィヴラート幅の多様さ。日本音楽独特の「間」という、緊張感をはらんだ時空。
…このような拡張奏法を用いることによって、西洋→東洋という
文化の枠を易々と飛び越えて しまいました。
単に「尺八を真似ている」と、私は思いません。
なぜなら、このような特殊な奏法を「音響の素材」として切り貼り(=コピペ)したのではなく、
日本音楽における哲学や美学への深い理解と鋭い感受 をもって、このような演奏を可能にしているからです。
もう1曲は『
Ilios(=イリオス )』
ギリシア神話に出てくる架空の都市だそうです。
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「怪演」
この演奏には以下のような、「拡張奏法」が用いられています。
○ウインドトーン (呼吸をエッジの外側に散らした、尺八のような音)
○ハーモニクス (倍音奏法)
○差音 (本来の音階には無い微分音程。西洋音楽ではしばしばノイズとされる音程)
○バンブートーン (特殊な運指によって、音色の輝きを消す)
○マルチフォニックス (重音奏法。倍音を利用して、同時に2つの音を吹く奏法)
○ウィスパートーン (ささやくようにかすかな、口笛のような音)
○声とフルート
○循環呼吸
これらは音響的な「効果」として面白いばかりでなく、音楽そのものの在り方として多彩であり、豊かです。
この曲は、20年ほど前には録音済だったと記憶しています。
…いかがでしたか?(^o^)/
普段私たちが目指しているフルートの音色は、余計なものをそぎ落とし、
音響の核 に迫っていくイメージがあります。一方、上記のような「拡張奏法」は、先ほど述べた「音響の核」からまさに「拡張」された音の世界だと言えましょう。
オッフェルマンズさんは、創作の着想を、世界各地に有す「民族音楽」から得ることも多いようです。
ある意味
「型」の中に収めていく西洋音楽の美学とは別に、「そうじゃなくても良いんじゃない?」「そうじゃなくても面白いんじゃない?」という、視点 があると思います。
このようにさまざまな意味で異なった音響文化を、フルート1本で飛び越えてしまう、オッフェルマンズさん。
そして私たちが日々手にしているフルートの可能性について、改めて思い起こしたのです。
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